出来損ないのあなた達が、
輝ける舞台を用意した。
さあ、踊って。愛くるしいドールズ。
モラトリアムの内側で。
鼓動がある。
夢がある。願望がある。
痛みがある。恐怖がある。
あなたは、欠陥品?
【 - DoLL;s M0√aT0RiuM - 】
Prologue 『√0』
──今日もどうやら、箱庭の学園は晴天だ。
オミクロンクラスに割り当てられた学生寮。女子と男子で分けられた寝室の小窓から降り注ぐ眩ゆい朝日が、それを曇りなく告げていた。
耳元で鳴る鍵の解錠音。
密閉された箱に梱包されたような、美しいドールのあなた達は、棺のようなベッドで『いつものように』目覚める。
あなたを揺り起こすのは、優しげな笑顔を浮かべる先生だ。
決められた時間に目覚めたあなたは、決められた通りに朝食をとるため、ダイニングルームへと向かう。
指定席に腰掛けると、視界に映るのはさまざまな容姿の子供達だった。髪の色も、瞳の色も、肌も色も違う。多種多様な需要に応じられるように、そういうふうに設計されているからだ。
あなた方はカトラリーを手に、いつもと同じスープをすする。
そんな穏やかな食事中、朗らかに笑みを湛えた『先生』が、小気味よく手を叩いた。
「みんなにいいお知らせがある。
一週間後に待ちに待ったお披露目があることは
知っているな。
その晴れの日に、このクラスからも一人、
ドールが選ばれることになった。」
先生が席を立ち、ひとりの指定席の後ろで立ち止まる。彼の大きな両手は、その少女の華奢な肩を優しく包み込んだ。
少女は、気恥ずかしそうに頬を薔薇色に染めて、微笑む。
「ミシェラだ。これからの一週間、彼女はお披露目に向けた最後の準備を行うけれど、みんなはその手助けをしてあげてほしい。
彼女の素晴らしい門出を祝ってあげるんだよ」
ミシェラは細い指先で頬をかいて、それから爛漫な笑顔を見せた。
「えへへ……わたし、わたしね、お披露目に選ばれることが夢だったの。だから……うれしい! お兄さまやお姉さまとのお別れはさみしいけれど、わたし、きっと外でもがんばるね」
ミシェラの言葉を聞いて先生は頷く。
ほんのひと時、ランタンのゆらめく炎のように強まった祝福のムードは、また和やかないつも通りの朝の風景に戻っていく。
「さあ、今日もお勉強をがんばろうね、みんな。困ったことがあれば先生を頼ること。それと……大切な『決まりごと』は忘れてはいけないよ。
──では、ご馳走様でした。」
決められた時間の食事を終え、あなた方には自由な時間が与えられる。
しかしドールズの本文である学びを得ることを忘れてはならないだろう。
“いつもの通りに”。
ADVENTURE