『ドールズ』。それはあなた達を示す言葉。
いつかあなた達を抱き上げる唯一の所有者の為に尽くす存在。あなた達は所有者となる彼等を『ヒト』と呼び、姿すら見たこともないヒトに憧れ焦がれる。そういう風に設計された作りものだ。
洗練された造形美を誇る特別性のビスクドール。
あなた達は特別な製法で造られている為に人形の身でありながら自我があり、自分で考え行動することが出来る。しかしその根底には、『所有者』に尽くしたいという願望がかならず存在している。
西洋で流行した人形の様に美しい見目をしているため、ビスクドール──と形容する事もあるが、何も陶器で出来ている訳ではない。あなた達は未知の材質で造形されており、その造りは私達が知る人間のものとほとんど大差がない。
傷ひとつない肌は滑らかな手触りで非常に柔らかく、触れると体温を感じられる。瞳からは宝石のような涙を流し、五感が備わっているため食事を取る事も出来る。肢体には赤い血液を模した燃料が巡っており、その供給源である心臓部には鼓動もある。人と同じように呼吸をして、激しい運動を経てば疲弊もする。あなた達は皆、幼い少年少女の見目を模して造られている。
そしてあなた達が生まれた『トイボックス』のドールズは、そんな特別な自分を造った存在が誰かを知らない。
ドールズにはそれぞれが得手とする役割に応じて、モデル名が冠されている。ドールズのモデルは以下の四種。
《エーナ》
簡単に述べると『話し上手なドール』。
所有者に寄り添って正しい助言を与える、対等な話し相手となれるような口達者なモデル。エーナモデルはドールズの原型、プロトタイプとも言われるスタンダードな個体であり、ヒトの対話相手になるというシンプルな役割を持つからこそ、最も需要があり汎用性も高い。
感受性が高く設計されていることが多く、相手の感情を読み取ることに長けている。同時に相手に感化されやすい弱点も有しており、もっとも人間に近い心を持っていると言えるだろう。
《デュオ》
簡単に述べると『とても賢いドール』。
様々な知識を有し、所有者の知らない物事を教え、導くことが出来るような聡明なモデル。ヒトの作業効率を高めるためにかなり実用的に設計された、プロトタイプのエーナの後継ともなるモデル。ドールの頭脳は元より発達しているが、デュオはその比ではないほど賢く、知恵者である。貪欲に知識を求めるような行動原理を自我に組み込まれている場合が多く、極めて勤勉な性質。
《トゥリア》
簡単に述べると『優しく穏やかなドール』。
優しく包み込むような穏やかさで、所有者に温もりを与えられるような慈悲深いモデル。エーナよりも更に深く、ヒトの寂寞や苦しみ、あらゆる負の感情をほどいて理解し、寄り添うことが出来るように特化して造られた。他のモデルよりも忠誠心や献身欲が強く設計されており、ヒトの為になることを常に模索している。そんなトゥリアモデルは所有者から母のような温もり、或いは恋人のような甘さを求められる事が多い。
《テーセラ》
簡単に述べると『かなり丈夫なドール』。
共に野を駆け、共に転び、共に笑い合う、所有者の誠実な友となれるような活発なモデル。特に幼い子供をターゲットと想定して設計されたテーセラモデルは、元気よく外を駆け回っても、派手にすっ転ぼうと、泥まみれになって水浸しになろうとも問題がないほどに、他のモデルと比べて圧倒的に丈夫な造りとなっている。性格設定も明るく快活であるように、と意識される事が多いようだ。
擬似記憶とは、『実際には体験していない記憶』を指す“偽記憶”の造語である。
目覚めたばかりのドールズには、あらかじめこの記憶が植え付けられている。「ヒト」と自分がどのように接すればいいのかの指針を明らかにする為、またドールズのヒトに対する忠誠心や献身欲を引き立てる為の記憶でもある。ドールズはこの記憶が偽物であると自覚しているが、それでも大切なものとして忘れずに取っている。
擬似記憶の内容は、大抵はあなたの「大事な人」と認識している家族や友人、恋人などと共に居る幸せな記憶である事が多い。
この記憶は不鮮明でありながらも、確かな実感としてあなたたちの記憶領域に浸透しており、あなたたちはかつてのこの温もりや愛を求めずにはいられないだろう。
(オミクロンのドールの擬似記憶の設定を参考にし、管理者がドールの設定を僅かに捏造する場合がございます。ストーリーの根幹に関わるため詳細は伏せさせて頂きますが、事前にご了承ください。)
美しく、優秀で、常に所有者の傍に寄り添う唯一の味方である、麗しの『ドールズ』。
『トイボックス』はそんなドールを必要としている者の元へ送り届ける至って善良な玩具工場だ。あなたたちはトイボックスが手掛ける最高品質のドールである。
目覚めたばかりで何も知らない無知なあなたたちは、いずれ主人を支えられるような素晴らしい人形となるため、ドールの為の学び舎を開いている。
それこそが『トイボックス・アカデミー』だ。
あなたたちを幸福な人生へ導くのは、毎日のお勉強。
近い未来、所有者を支える上で必要となる知識を今のうちに身に付けておくのだ。教鞭を取るのはトイボックスを管理する数名の管理者である大人たち。あなたたちにとっての親であり、先生であるとも言えるだろう。
〈生まれた時から傍におり、頼れる大人としてあなた達を教え導く彼女らを、あなた達は信頼している。〉
トイボックスのドールは、暫く適性を審査された後、何らかの欠陥が見られた場合のみ既存の四つのクラスのいずれにも対応しない五つ目のクラス、『オミクロン』に移される。
オミクロンは欠陥ドールだけが集められる事から、他のドール達にとって落ちこぼれ学級『ジャンク』呼ばわりをされるなど、蔑視の対象となっているようだ。
オミクロンに移行される『欠陥』の条件は以下の三点。
・肉体的な欠損が見られること
損傷の程度は問わない。小さな切り傷から四肢などの欠損まで。最高級品として送り出されるドールには、些細な傷すらも許されない為である。
・精神的な欠陥が見られること
言うまでもない事だがあなた方には自我がある。所有者に服従しなければならないという当然の思考から逸脱し、現状に違和感を抱いたり、己の立場を不満に思うなどしてドールらしからぬ危うい思想を持った者が該当する。所有者のサポートが出来ないほどに情緒不安定であったり、精神病の疑いが見られるドールについても同様。
・勉学の成績が振るわないこと
元より学習能力が高いよう設計されたドールズが、学びを得て成績が振るわないのであれば、その機能に難有りと判断されるのは必然。また所有者の為となる勉学に打ち込む関心が見られないドールは、上記の精神的な欠陥があると見做される場合もある。
上記のうち、どれか一点でも当て嵌まれば、例え優秀な『プリマドール』であったとしてもオミクロンに移行される。
オミクロンに籍を置いたドールズはジャンクと呼ばれることから、お披露目では輝けないとも言われているが、そんな心配は無用である。
〈オミクロンの生徒であろうと例外なく、これまで何度も『お披露目』に選ばれているからだ。〉
それはドールズにとって人生最大と言っても過言ではないほど重要なイベント。
ドールズが焦がれて止まないヒトの前に姿を現し、己を見染めてもらう為のお披露目だ。事実上、アカデミーからの旅立ち、『卒業』とも言える。
トイボックスのドールズは最高級品。
故にお披露目の注目度が高いことは、外の世界を知らないあなた達でも周知の事実である。
一大イベントのため、普段は見慣れた制服姿のドールズも見違えるほど着せ替えられ、輝かしい絢爛な礼装で入念にめかし込んでから臨むことになっている。
〈だがあなた達はお披露目の光景をその目で見たことはない。〉
〈そして、お披露目に出て行ったドールとまた会えた試しはないため、話を聞く事も叶わない。〉
だがドールズはひたむきに信じている。
いつかお披露目で、自分を何より可愛がってくれる、唯一の存在と出会うことが出来ると。