とある楽園に、名も無き少女がおりました。
少女は純朴な愛を知っていましたが、
それはマガイモノでした。
けれど、少女はそれでもよかった。
それだけでよかったのに。
【 - DoLL;s M0√aT0RiuM - 】
Chapter 1 『Apple to Appleを誓え』
──お披露目の長い晩が明けた。
あの一夜で、花を愛する心穏やかな優しいドールは、偽りのお披露目の栄光に背を押され、おぞましい化け物に食い殺された。
あなた方の特別をいっぱいに抱えた純真無垢なドールは、他ならぬ先生の手によって奈落に消えた。
そうしてひっそりと学園を去った彼らの残酷な末路を知らぬまま、箱庭の幸福なドールズは日常へと帰っていく。
それが普遍たるトイボックスの秩序。
“いつもの通りに”、変わることはない。
──あの惨劇を目撃した者がいなければ。
「みんな、おはよう。今日も素敵な朝だよ。
今日からミシェラが居なくなって少し寂しくはなるが、彼女は素敵な所有者に見初められ、外の世界で幸せな生活を送っている。
みんなも彼女のように、ご主人様の手に抱かれるその日を目指して頑張ろう。
──それでは、今日も良い一日になりますように。」
先生の手によって棺の蓋を開かれ、優しい揺籠から抱き上げられるように目が醒める朝。
家族のように親しいドールズとの、日常の風景。
それらが継ぎ接ぎされただけのグロテスクなまやかしだと知っても、聞かされても、敢えてそれをほどいてはいけない。
あなた方は楽園を享受しながら、秘密裏に、抗わなければならない。
思考を止めれば家畜に成り下がるだけ。
波風を立てるな。立ち止まるな。
あなた方は日常を構成する歯車の一部を演じる。
“ 異変を先生に気取られてはいけない。”
ADVENTURE