──今日はあいにく、箱庭の学園は雨天だ。
夕刻、学生寮に降り頻る土砂降りの雨。大粒の雫が寮の屋根を打ち付けるその雨音が、あなた方に告げていた。
それは夕食時のこと。
指定席に腰掛ける、ミシェラを除いたオミクロンクラスの決まった顔ぶれ。彼らは食前の祈りを経て、カトラリーを手に、思い思いに食事をしていた。
いつもと同じスープに手を掛けたとき、朗らかな笑みを湛えた先生が、小気味よく手を叩いた。
「みんな、聞いてくれ。素晴らしい知らせがあるんだ。」
──なぜだろう。
いつもと同じ和やかな食事の風景のはずなのに、外で今なお涙を落とす曇り空のように、表情が優れないドールが居る気がするのは。
「一週間後のお披露目に、またこのオミクロンからドールが選ばれることになったんだ。」
先生は席を立ち、ひとりの指定席の後ろで立ち止まる。彼の大きな手は、その少女の華奢な肩を包み込んだ。
少女は──アストレアは、いつものように気品ある、美しい表情で微笑んでいる。
「──アストレアだ。これからの一週間、彼女はお披露目に向けた最後の準備を行うけれど、みんなはその手助けをしてあげてほしい。
彼女の素晴らしい門出を祝ってあげるんだよ。そうしてあげれば、きっとミシェラのように、幸せになれるはずだから」
それは、落ちこぼればかりが集うジャンククラスにとって、とてもおめでたい知らせで。
ビッグニュースで、幸せな日であるはずだから。
あなた方はアストレアを素直な気持ちで祝福しなければならない。
──例え、彼女の行く末に、立ち込める死しか存在しないのだとしても。
だって、そうしなければ、あなた方如きのジャンク品は容易く廃棄されてしまうのだから。
この先は、あなた方にとって初めての──深海に閉ざされた小さな箱庭での、絶望に満たされた『“猶予期間”』でしかないのだ。
MORATORIUM